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日伊協会長野が「地方からの日伊交流」文化セミナーを上田市のJewelry Salonヤジマで開催!今年最終回

テーマ:上田市ニュース

【自作ヴァイオリンの構造を説明する中澤さん】

 日伊協会長野(渡辺千洋会長、会員数80人)はこのほど、今年最終となる「地方からの日伊交流」文化セミナーを、事務局を置く上田市海野町のJewelry Salonヤジマ(矢島万記子社長)で開催した。
 
 講師は、日本有数の弦楽器製作及び修復家で、東日本大震災の津波による流木や倒壊家屋の木材から作られた「TSUNAMIヴァイオリン製作者」でもある上田市在住の中澤宗幸さん(82)。
 妻でヴァイオリニストの中澤きみ子さんも招いた。

 中澤さんは「世界最高峰のヴァイオリン制作者の双璧をなすのはストラディバリとグァルネリ。共にニコロ・アマティに師事しグァルネリが兄弟子になる。グァルネリウスが奏でる音色は重低音が無常観を放つ。ストラディバリウスは高音で明るく華やかな人生を彷彿とさせるハレの人生、対極である。300年以上も前にグァルネリにより制作された楽器で現存しているのは約200挺、ストラディバリにより制作された楽器は約600挺とされている。日本人が空気を読み、誰かが頭ひとつ出ようものなら集団で足を引っ張る同調圧力が強い国だが、イタリア人は、個性的な意見を言うのが当然で、明日をどう生きるかよりも今をどのように楽しむか無駄と思われる時間を大切にする気質があり、このような生き方こそ芸術家を生む背景」と話した。

 ヴァイオリンに触れるきっかけは、兵庫の山あいで山林業を営んだ父親自作のヴァイオリンで毎晩家族で歌い、8歳のとき父親にヴァイオリンづくりを学んだこと。
中学の夏休みの自由研究では自作ヴァイオリンを作り続けた。
 その後、神戸の楽器店でヴァイオリンの表板から裏板へ振動を伝える小さな木の柱「魂柱」の位置を直したことをきっかけにストラディバリやガルネリなどのオールドヴァイオリンが世界中から集まるロンドンへ。
父の教えである「一流のものにふれること。一流のものだけを見続ければ本物が分かる。」を体現することとなる。
 一流の芸術家の彼らにこの手で勝てるものはないのかと思いから修復家を目指すことに。
ヴァイオリンドクターとしてストラディバリウスなどの修復家として世界に名を知られることになる。
 人間の声に一番近い声を取り戻させる時間には数カ月から10年以上もかかることもある。
ストラディバリは天才であり、材料選びが完璧で、しかも17世紀当時の木が最高品質だったこと、300年かけ偉大なヴィオリニストに弾かれ経年変化によりさらに進化を遂げるエイジングなど様々な条件が重なり奇跡を起こしたと言える。
 科学や技術が発達した今でも決して超えることができない。

 講演後、クレモナがヴァイオリンの街になった理由はとの質問に、ミラノから南東80㎞に位置する古都クレモナは、隣国クロアチアでヴァイオリンの材料となる高品質な米唐檜(べいとうひ)や楓が採れ、こうした材料がポー川流域の海運で容易に手に入ること。
15世紀以降アマティ、ストラディバリ、グァルネリなどを輩出し、彼らに憧れ集まるヴァイオリン工房が100近くあることなどを挙げた。

 ライフワークとして進める東日本大震災復興のシンボルとなった陸前高田の「奇跡の一本松」。
その木片を「魂柱」として使ったTSUNAMIヴァイオリンで「千の音色でつなぐ絆プロジェクト」を展開。
 この活動に共感された美智子上皇后へも伝わり、2013年7月には天皇陛下(当時、皇太子殿下)がTSUNAMIヴィオラを演奏されたエピソードも語った。